コマーシャルアートって知ってます?相手から求められている絵を描くアート
今回インタビューさせていただいたのはイラストレーターのKazu Tabuさん。19歳の時に渡米し現地の会社でイラストレーターとして活動し、現在は帰国しフリーのイラストレーターとして活動されている。実際のイラストを見せてもらったが、何とも言いがたい不思議な世界観を直感的に表現される作品には圧倒されました。今までの活動とKazu Tabuさんのこれからを伺った。
ソラトニワに記事提供をしているアートメディアのMediartから、今回はイラストレーターのKazu Tabuさんのインタビュー記事です。
19歳で渡米、現地の会社でイラストレーターとして活動後に帰国し現在はフリーランスとして活動しているという事で、国内と国外の仕事に求められる物の違いやこれからについてをお伺いしました。
Photo by:Kaoru Umetsu
JP(以下――)まずはじめに、聞かせてください。Kazu Tabuさんのサイトを拝見させて頂きました!「Dream Home」という作品がすごく印象的だったのですが、この作品を描く上でのストーリーや大切にした部分を教えて頂けますでしょうか?
Kazu Tabu:この作品(Dream Home)のきっかけは今度、私の友人が6月に結婚するんですけど、その時のウェルカムボードっていう形で依頼を受けました。制作するにあたってまずは「祝福したい!」という気持ちから始まり、そのうちに1人1人が自分の中に持ってる心の森の存在というものを感じ始め、それを結婚を通して共有し2人で豊かな森を築いていってほしいという願いを込めるようになりました。
▼Dream Home
――森の上に描かれている魚はなんですか?
Kazu Tabu:ただ自分は作品を作る上で大事にしているものがあって、最初は自分の中の思いがあったりするんですけど…制作していく中でどんどん変わっていっちゃうんですよ。人によって作品の捉え方も違うはずだし、あんまりこれをこういう思いで作ったからこういうふうに思って欲しいとかは思ってないんですね。だからこれはこれを表していますとかあまり前もって言いたくない。観た人が自分が表そうとしたことと全然違うことを感じとったとしても、それを否定することはできないし、あまり意味がないんじゃないかと。作品を作っていく中で自分の心を知ることができて、また完成した作品を通して観た人の心を垣間見ることができたらいいなぁとそんなことを思います。人も動物も物も植物も、もともと心の深いところでつながっていると感じていて、自分を掘り下げていくと、ふと他人の深いところに出ることができる。その繋がりのようなものを探している。そんな感覚です。
――この作品良いですね
Kazu Tabu:これは、あんまり描いた時の事は覚えていなくて、ごちゃごちゃ考えずにその時の思いつきですね。普段からスケッチを描いていて、その絵もこのスケッチブック中にあるんです…
▼I-Am-You
描いている時に感じる事とかって色々あるんですけど、それをあとから説明する時はきっと後づけだったりすると思うんです。その時に何を考えていたかっていうのは、はっきり覚えていないというか、これはあまり考えずにその時直感で描いた作品です。昔、1年間1日1ページスケッチを描く事をしたことがあって。それは凄く労力を使ったので今はやってないんですが…
Photo by:Kaoru Umetsu
Photo by:Kaoru Umetsu
――イラストを描き始めたきっかけを教えてください
Kazu Tabu:僕は愛知県の豊田市出身なんですけど、日本にいた時はエンジニアを目指して機械工学の勉強していたんですよ。理系で数学とか物を作るのが昔から好きだったので、工業の高等専門学校に通っていました。学校は5年なんですが、3年目に少し違うなと感じ始め4年目に行くのをやめました。…というのも学校を卒業したらそのままその町に就職をするのが進路として見えてきてしまった。そうやって決まっていってしまうことが怖くてアメリカに行くことを考え始めました。英語が喋れればなんとかなるかなと(笑)
――その後アメリカへ…
Kazu Tabu:アメリカに行って、最初は語学を勉強していて大学に入ることになりました。
専攻を何にするか決める時に絵好きだし…最初はそのくらいの感覚で考えていて(笑)絵の勉強ができたらいいなくらいにしかそのときは考えていませんでした。それが19~20歳の時です。最初は2年間フレズノという町で、短期のコミュニティカレッジに通ったんですけど、アートを勉強するならある程度都会の方がいいだろうと思いLAに引越しました。
アートが社会の一部になってるという感覚
Kazu Tabu:LAでコマーシャルアートを知り興味を持ちました。いわゆるビジネスになるアート。自分が描きたいものを描くアートではなくて、相手から求められている絵を描くアート。手段としてのアートというものに興味を持って、それが楽しくて色んな技法を勉強しました。
――どんな技法を学んだんですか?
Kazu Tabu:油絵、アクリル、水彩、スクラッチボードとかetc…そして卒業するときに大学の先生がストーリーボードの会社のマネージャーさんと知り合いで「そこのテストを受けてみないか?」と紹介されたんです。そうして、まずはフリーランスとして登録することになりました。
なので卒業した後1年間はフリーランスとして活動していました。ストーリーボードとは、簡単に説明すると、顧客である広告代理店が考えたテレビのCMや雑誌の広告のアイデアを彼らの依頼主にわかりやすくまた魅力的にプレゼンテーションできるように、漫画のように内容の流れに従って視覚的に明示した絵におこす仕事です。最初は1年経ったら日本に帰国しようくらいに思っていました…当時はビザの取得に必要なフルタイムのポジションの空きもなかったので。するとちょうど日本に帰国する1~2ケ月前にたまたま枠が空いて「うちでビザのサポートもするので正社員として働いてみないか?」とオファーを頂いて働く事になりました。
――アメリカで活動されていた時のお話を聞かせてください
Kazu Tabu:会社では、主にTVCMのストーリーボードを描いていました。
その傍らで自分の描きたい絵を描き続けていました。その頃は全体的にもう少し暗いアクリル画を主に描いていました。それで、その作品をアートショーに出展したりしていました。日本で言うと個展やグループ展ですね。一時期は月1のペースでやっていた時もありました。しかし、いつしか何か自分の中でちょっと違うなと思ったことがあって…そこから一旦辞めたんです。
▼Life-of-Hippopotamus
▼Samsara
色をつけて表現する
Kazu Tabu:その後2008年にリーマンショックがあって、それがきっかけで会社の仕事の量も減ったのもあり、時間もできたのでフォトショップで色をつける勉強を始めたんです。それまで会社では、線画を描く仕事と色をつける仕事は完全に分業になっており、自分は線画の担当をしていたんですが、そこから色をつける仕事も任されるようになりました。むしろどうやら色の仕事のほうが自分にはあっていたみたいですね(笑)会社では以前よりも能力を認められる様になり、手応えもあって多くの経験を積ませてもらいました。そうして、自分のファインアートの作品にもデジタルで色をつけるというアプローチを試みるようになり、次第にそのスタイルに移行していきました。
Photo by:Kaoru Umetsu
――いつ日本に帰国されたんですか?
Kazu Tabu:2011年の3月に日本で地震がありましたよね。津波の時に自分の無力感を感じたことがあって…地震とは直接関係ないんですが、その夏頃に身体を壊して1ケ月くらい仕事を休まないといけなくて、その時に色々考える事があり自分の中が凄く変わったんです。理由は色々あるんですけど、単純に日本に住んでみたかったっていうのもあります。19歳でアメリカに行ったので自分の中には日本とアメリカが半分半部なんですよね。それから2013年に帰国しました。
――現在の活動について教えて下さい
Kazu Tabu:帰国してからはフリーで仕事をしています。AQUAというイラストとかストーリーボードを担ってる会社があって、帰国後フリーランスとして登録をしたんですよ。あとはアメリカの仕事なども時折引き受けています。会社員の時より、仕事はものすごく楽しくなりましたね。基本的には同じ内容なんですけど。多分色んなことを、自分で決めるということが元々好きだったんだと思います。そうやって自分で時間を作って、自分で描きたい絵も描いています。そのバランスが以前よりも自然な形でできるようになってきた気がします。
――ポスターの写真を拝見しました。モビットの絵も書かれていましたよね?
Kazu Tabu:普段は広告制作前のプレゼンテーション用のコンセプトイメージを描くことが多いので、表舞台に出るのって少ないんですが、これは、その当時に「油絵っぽいスペインの闘牛のポスター風」というアイデアのプレゼン用に僕が依頼されて描いた絵を、たしかモビットの偉い人に気に入って頂いて…そしたらそのままその絵を描いた人にポスターもお願いしてほしいという流れになりまして、最終的な制作を任せていただきました。
Photo by:Kaoru Umetsu
Photo by:Kaoru Umetsu
▼モビットのポスター
地元に還元する
――最後に今後やっていきたい事、目標を教えてください
Kazu Tabu:長期的な目標だと、地元の豊田市に豊田市美術館があって、そこでいずれ自分の個展をやりたいです。今はどうやってそれが達成できるかはわからないですけど…親とか地元で一緒に育った友達が気軽に見に行けるちゃんとした場所で個展をやる。それが目標ですね。せっかく日本に帰ってきたし。やっぱり大事なことだと思うんですよ。自分をカタチ作ってきた場所なんで…
Artist
Kazu Tabu
愛知県豊田市出身。19歳の時に渡米し現地のInteractive Art Servicesという会社でイラストレーターとして10年務める。2013年に帰国、現在は横浜市に住んでいてフリーでイラストレーターの活動を行っている。趣味はロッククライミング。
Interviewer
植田 淳平(通称JP)
MediArt管理人
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